【内部統制の不備】東海理化の事例に学ぶ、税効果会計の属人化リスクとマニュアル見直し

今回は、株式会社東海理化(東証プライム)が2026年6月9日に公表した「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」を取り上げます。
https://www.tokai-rika.co.jp/ir-news/file/20260609-1.pdf

高度な専門的判断を伴う「税効果会計」の領域において、どのような内部統制上の課題が生じたのか。そして、当サイトでも度々言及している「形式的な制度対応にとどまらない、実務に即したガバナンス体制」の観点から、他社が学ぶべき教訓について考察します。

1. 事案の概要:東海理化における内部統制の不備の内容

2026年6月9日、東海理化は、第79期(2026年3月期)の内部統制報告書において、開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制が「有効でない」旨を記載したと発表しました。

対象となったプロセスは「税効果会計の適用に関する決算・財務報告プロセス」です。

同社の発表によると、発生した事象の詳細と不備の理由は以下の通りです。

  • 複雑な退職金制度と一時差異の把握漏れ
    同社は退職金制度として「確定給付企業年金制度」「退職一時金制度」「確定拠出年金制度」を設けており、さらに確定給付型と一時金制度のそれぞれに「退職給付信託」を設定していました。これら複数の制度・信託から生じる一時差異の内容を正確に把握する体制が整っていませんでした。
  • 高度な専門性を要する判断に対する検証不足
    一時差異の性質を正しく認識し、適切なスケジューリングを行って繰延税金資産の回収可能性を判断するには、「会計上の高度な専門的知識と判断」が必要でした。しかし、決算作業において十分な検証や確認が行われておらず、結果として誤りが生じてしまいました。

これら不備の発覚が事業年度末日後であったため、期末日までに是正できず「開示すべき重要な不備」としての公表に至っています。

2. 実務現場のリアル:形骸化するチェックと「属人化」の罠

この事案は、まさに「内部統制は『文書整備』だけでは防げない」という実務上の大きな課題を浮き彫りにしています。

これまでの私の実務経験から見ても、税効果会計にかかる内部統制は、上長がただ書類に押印するだけなど、完全に「形骸化」しているケースが非常に多いのが現実です。

税効果会計におけるスケジューリングや回収可能性の判断は、機械的なチェックリストの運用では完結しません。高度な専門性を要するため、現場では以下のような事態が頻発しています。

  • マニュアルの不在とブラックボックス化
    業務が複雑すぎるため詳細なマニュアルが作成されず、特定の担当者の頭の中にしかノウハウがない(完全な属人化)。
  • 担当者退職時のリスク
    業務が属人化している状態では、その担当者が異動や退職をした途端に業務が回らなくなり、引き継ぎ不足から後任者が重大な誤謬を引き起こすリスクが跳ね上がります。

今回のような事案は、チェックの承認欄に「レ点」や「ハンコ」を押すような形式的な運用や、特定個人のスキルに過度に依存した体制では防ぐことができません。

3. 他の企業が学ぶべき教訓と今後の対策

東海理化のケースは、決して特殊な事例ではなく、多くの事業会社で起こる可能性があります。したがって企業は以下の対策を急ぐべきです。

  1. 「マニュアルの見直し」と業務の標準化
    「担当者がいなくなったら決算が締まらない・間違える」という属人化からの脱却が急務です。今のうちに、単なる内部統制の枠組みだけでなく、実務レベルでの詳細なマニュアルを作成し、かつ定期的な見直しを行い、誰が担当しても一定の品質を保てるように業務を標準化する必要があります。
  2. 実質的なレビュープロセスの再構築
    単なる「上位者による押印による承認」から脱却し、「判断の根拠は何か」「データに正確性・網羅性はあるか」を実質的かつ批判的に検証する体制を構築しなければなりません。
  3. 専門人材の確保と外部リソースの活用
    社内のリソースだけで高度な会計判断とマニュアル整備を完結させることが難しい場合、プロセスの早い段階から外部専門家の知見を適切に組み込む体制づくりが重要です。

おわりに

東海理化は、財務報告に係る内部統制の重要性を認識し、今後適切な内部統制を整備・運用していくとする是正方針を示しています。

企業のガバナンス・内部統制担当者の皆様は、今回の事例を一つのきっかけとして、自社の内部統制が「単なるスタンプラリー」になっていないか、そして担当者の退職というリスクに耐えうるマニュアルが整備されているか、いま一度見直してみてはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

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川端 啓豊
公認会計士・システム監査技術者・公認情報システム監査人(CISA)

福岡県出身。東京大学法学部卒業。
本田技研工業株式会社(Honda)入社後、内部統制の構築・運用および内部監査の高度化に従事。
その後、大手監査法人やコンサルティング会社等において、会計監査・IT監査等の現場責任者として、幅広い企業の内部統制構築・評価・改善を支援。
事業会社・監査法人の双方で培った知見を活かし、現場目線でのガバナンス支援を提供します。